2013年12月25日  「My Song」 第3回

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photo by dullhunk

 僕も数学が好きだったので話は合った。ただ一つ気が合わないことと言えば、僕が大のロック好きで彼が嫌いなことだった。

 ある日、僕が自分の部屋のテレビでベストヒットUSAを見ていると長尾さんが入ってきて言った。

 「こんなののどこが面白いんだい?」

 「嫌いですか?」

 「うるさいだけじゃないか。こんなもん。メロディーも何もありゃしない」

 「そんなことないですよ」

 「大体、テレビは頭に悪いぜ。脳みそを吸い取られる」

 「じゃあ、長尾さんはテレビ見ないんですか?」

 「見ないも何も、持ってないよ」

これじゃあ、お話にならないと僕は思った。

 「でも長尾さん。レコード出して有名になってテレビに出て印税がばがばもらえるって言ったらどうですか?」

 「全然、興味ないね。いいか、俺たちはブラウン管のこっち側の世界で生きているんだぞ。ブラウン管の向こう側(あっち側)なんて行けっこないのさ、特別に美人だとか、とんでもない才能がない限りね。な、そんなこと下らないと思わないか?」

 「じゃあ長尾さんは一生、ブラウン管のこっち側で満足なんですか?」

 「十分、満足だね。こっちの方がずっと楽でいい」

 僕はふと、どこかで似たようなセリフを聞いたことがあると思った。それは、

    世の中には、二通りの人間しかいない。

            使う人間と、使われる人間とだ。 

     あるいは、創り出す人間と、消費する人間だったのかもしれないが。

 簡単に言えばこういうことだ。

        世界はブラウン管というがラス板で二分されている。

                    こっち側とあっち側に。

        

 4月の終わりにはダンスパーティーがあって、僕と長尾さんは勇んででかけた。

 「お前、彼女いたっけ」と長尾さんがきいた。

 「いませんよ、そんなもん」と僕はあわてて言った。

 「じゃあ今日、俺が見つけてやるからな。まかせとけ」

 そんなこんなで僕の大学生活は始まった。