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2014年1月23日  「My Song」 第9回

昔書いた小説

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 七月に美加さんは二十歳になった。誕生日は七夕の次の日だった。僕は新宿でケーキを買って電車に乗り、彼女のアパートに行った。

 「やあ、ケーキを持ってきたよ」

 「あら、まあ、中に入って。今、切るわ」

 彼女の部屋はとてもシンプルに構成されていた。両側の壁に机と本棚、そして部屋の隅にはラジカセが置いてあるだけだった。壁にはゴーギャンのポスターが貼ってあった。とても清潔な、彼女らしい部屋だった。

 彼女が台所でケーキを切っている間、僕は本棚を眺めていた。僕は人の家に行くと必ず本棚を見てしまう癖がある。どんな本を読んでいるかでその人の人柄も少しはわかるような気がするからだ。

 「テープかけてもいいかな。いいの、持ってきたんだ」と僕は台所にいる彼女にきいた。 「どうぞ、ご自由に」と彼女が背中ごしに答える。

 僕はテープをセットした。色々迷ったのだが、結局、キース・ジャレットの「My Song」をこの日のBGMとして僕は選んでいた。カルテットのとても心地よいアルバムだ。

  「はい、どうぞ」と彼女がケーキを持ってきてくれた。

 「どうもありがとう。実はビールも持ってきたんだ」と僕は言った。

 「じゃあ、飲みましょうよ」

 僕たちはビールを飲みながら色々なことを話した。

 「夏休みはどうするの」と彼女がきいた。

 「うん、クラブの合宿で那須に行って、それから名古屋に帰ってバイトするよ。君は?」

 「私はこっちに残っているわ。いいバイトを見つけたの」

 「それって何だい」と僕は聞いたのだけれど彼女は一言、「言いたくないわ」と言って黙ってしまった。

 

 一度だけ、電話がかかってきた。僕はその間、床の上に寝そべって雑誌を読んでいた。受話器を置くと彼女が言った。

 「あっ、シャツのポケットに入っているの、たばこじゃない」

 「そうだよ。吸う?」(あれ、彼女はたばこなんか吸わないんじゃないかな)

 「ええ、一本ちょうだい」

 「ま、いいけど、美加さんたばこ吸ったっけ?」僕はちょっとびっくりしながら言った。 「ええ、最近辛いことがあると吸うの」

 「へえ」彼女の下にも様々な川が流れているのだ。と僕は思った。

 「う・そ。この間、同じクラスの美樹ちゃんと徹夜した時、ふざけて吸ってみたの。初めてだったけどけっこうおいしかったわ」

  僕らは飲み終えた缶ビールの缶を  灰皿代わりにしてたばこを吸った。なんだかとても秘密めいたことをしているようで僕は胸がドキドキした。

 「なんだか高校生の不良みたいね」と彼女が笑った。そして本棚からサングラスを取り出すとそれをかけた。僕はそれが彼女の魅力をよりかきたてることに気づいてちょっとびっくりしてしまった。

 「うわー、かっこいいよ」と僕。

 「そうかしら」なんて言って彼女はポーズを取ったりした。