2014年1月16日  「My Song」 第8回

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 僕は大学でまた新しいバンドを組んだ。ボーカルの女の子はシンディー・ローパーが大好きなめちゃくちゃに明るい女の子だった。

 ある日、僕は練習の後で彼女に僕が新しく作った曲の詩を見せた。彼女は「ふむふむ」とそれを読んだ後で言った。

 「あなた、何のために詩を書くのか考えたことある?」

 「あまりない。でも、時々、無性に誰かに何かを伝えたくなって、それで書くんだと思う」と僕は答えた。

 「そう」

 「うん、どこかで僕の理解者を探し求めているのかもしれない」

 「リカイシャ?」

 「僕のことをわかってくれるひとのことさ」

 「あなた、そんな人のために詩を書くの?自分のためじゃなく?それで、その人に『よかったわ』なんてお世辞を言ってもらいたいわけ?だったら悪いこと言わないからやめた方がいいわ」

 「どうして?」

 「だってそんなの何の足しにもならないじゃない」

 「そうかな。じゃあ君は何で音楽やるの?」

 「楽しいからよ。私は自分が楽しいからやっているだけ。誰かに認められようとか、何かを伝えたいだとか、そういうのって考えたことないわ」

 「ふーん」と僕は言った。そしてやはり自分は叶わぬものを虚しく追い求めているのだろうかてと思ってやりきれなくなった。

 

 冬に僕は長尾さんの紹介で銀座にある寿司屋でアルバイトをすることになった。僕は火曜と木曜の六時から十時までウェイターまがいのことや、皿洗い、出前をやった。

 もう一人のアルバイターは北海道から出てきたロック狂で、そこで毎日バイトをしながらプロになるチャンスを窺っていた。

 「絶対、プロになってレコードを何枚も出すんだ。既に100曲は書き溜めてあるしね」と彼は言った。

 ある日、僕らは近くにあるスタジオに出前を頼まれた。そのスタジオは高いビルの6階にあった。我々はミキサールームに通された。

 「わっ、すげー。こんなとこ入れて感動しちゃうな」と僕は言った。

 「おいおい、見ろよあれ。あれ、タカサキ・アキラだぜ」と彼が興奮して言った。ガラス窓の向こう側では確かにラウドネスのギタリスト、アキラ・タカサキがギターを弾いていた。

 「ニューアルバムのレコーディング中なんだ。君たちもラッキーしたね」とミキサーの人が僕達に言った。

 「いいこともあるもんだね」と僕は言った。

 「くそー、俺だっていつかはあそこでレコーディングしてやるんだ」と彼はガラスで仕切られた向こう側を見つめ、唇を噛み締めながら言った。

 

 そのようにして季節は巡り、僕は二年に、美加さんは三年に進級した。僕は相変わらず世界のこっち側であくせくとバイトをし、レポートの締め切りに追われ、バンドでギターを弾き、美加さんと時々デートをした。