2014年1月9日 「My Song」 第7回
翌年の春、彼女は見事に第一志望の大学に合格し、僕より一足先に上京してしまった。「あなたも東京に来なさいよ」と彼女は冗談交じりに言った。
「そうしたら、付き合ってあげてもいいわよ。」
「変な誘い方はやめてほしいな」と僕は照れながら答えた。
美加さんのいない一年間はなんだかとても間の抜けた一年だった。僕は高校三年で受験勉強をしなければならなかったが、相変わらずレコードを聴いたり、作曲のまねごとや詩を書いて彼女に会えないいらだちを紛らわしていた。
もちろん、夏休みや冬休みに美加さんは名古屋に帰って来た。薄化粧をした彼女はとても美しく、大人の香りがしてその匂いだけで頭がクラクラしてしまった。
秋に僕は友人と二人で大学見物に出かけた。二人とも名古屋より大きな都会に憧れていたので東京、京都、大阪の大学を色々見て回った。そして僕は結局、東京にある国立大学と私立大学を一つずつ受けることにした。
翌年の春、僕は国立に落ち、私立に受かった。浪人するのは嫌だったのでその私立に入ることにした。美加さんに早く会いたかったのも一つの理由だったのかもしれない。
そんな訳で僕は美加さんに片思いのまま、でもなんだか仲の良い姉弟のようにして十八歳の春を送っていた。
美加さんは僕の心の中の理想の人で、恋人にしようなどととは夢にも思わなかった。そりゃあ、もう単なる好き以上、ほとんど愛しているに近い感情は持っていたが、彼女の不思議な雰囲気がそれを許さなかった。かと言って、他に好きな人はいなかったし、そんな気にはなかなかなれなかった。そんな宙ぶらりんの状態の中に僕はいた。
4.
金曜日の夜に僕は美加さんに電話をかけて土曜日に僕達はデートをした。たぶんデートと呼んでいいのだと思う。それ以外に適当な言葉を思いつけない。
僕と彼女は代々木公園をブラブラと散歩しながら音楽や映画、それにお互いの友達のことなどについて飽きることなく喋り続けた。彼女は僕のセーターを幾度か引っ張って「ねえ、それから?」と続きをせがんだりもした。それだから僕は何度か「まあ、待ってくれよ」と言わなければならないくらいだった。
会話はまるで堰を切った滝のようにあとからあとからとめどもなく流れ出しては消えて行った。そうやって話をしながら僕らは表参道を抜け、青山を通って赤坂へ行き、さらに銀座まで歩いてしまった。日は霞み始め、僕らは適当な喫茶店を見つけるとそこに入った。そうやって僕と彼女の週末は過ぎて行った。