昔書いた小説
夏休みが終わり、僕は東京に戻ってくるとすぐに美加さんのところに電話した。 「アナタノオカケニナッタデンワバンゴウハゲンザイツカワレテオリマセン」 受話器の向こうで機械が愛想なく答えた。これは一体、どうしたことだろうと僕は思った。 九月の終わり…
「あなた、最近もまだ詩、書いてるの?」と彼女がきいた。 「いや、もうほとんど書いてない」と僕は言った。 「なんだか、愚痴を吐き出してるみたいで嫌になっちゃったんだ」 「そう、私はそうは思わないけど」と彼女が言った。 「自分のことを人に伝えるこ…
七月に美加さんは二十歳になった。誕生日は七夕の次の日だった。僕は新宿でケーキを買って電車に乗り、彼女のアパートに行った。 「やあ、ケーキを持ってきたよ」 「あら、まあ、中に入って。今、切るわ」 彼女の部屋はとてもシンプルに構成されていた。両側…
僕は大学でまた新しいバンドを組んだ。ボーカルの女の子はシンディー・ローパーが大好きなめちゃくちゃに明るい女の子だった。 ある日、僕は練習の後で彼女に僕が新しく作った曲の詩を見せた。彼女は「ふむふむ」とそれを読んだ後で言った。 「あなた、何の…
翌年の春、彼女は見事に第一志望の大学に合格し、僕より一足先に上京してしまった。「あなたも東京に来なさいよ」と彼女は冗談交じりに言った。 「そうしたら、付き合ってあげてもいいわよ。」 「変な誘い方はやめてほしいな」と僕は照れながら答えた。 美加…
そこで僕らはありとあらゆるレコードを聴いた。レッド・ツェッペリンの「Coda」、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」、YMOの「サービス」、ボブ・ディランの「フリー・ホイーリン」、キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」などなど。 「一年前の…
3. 僕がはじめて彼女に会ったのは高校二年の冬だった。 その頃、僕は名古屋に住んでいた。名古屋というとあまり良くないイメージを持っている人も少なくないようだけれど、実際に住んでみればそんなことがまるっきりの嘘であることがすぐにわかるはずだ。も…
2. 実は僕には密かに好きな人がいた。そして、彼女も東京のある大学に通っていたので僕と彼女は上京後もたまに会ったりしていた。彼女は美加さんと言って僕より一つ年上の大学生だった。 その日、僕と彼女は井の頭公園を歩いていた。公園の池にはボートが浮…
photo by dullhunk 僕も数学が好きだったので話は合った。ただ一つ気が合わないことと言えば、僕が大のロック好きで彼が嫌いなことだった。 ある日、僕が自分の部屋のテレビでベストヒットUSAを見ていると長尾さんが入ってきて言った。 「こんなののどこ…
photo by Retinafunk 第一回からちょっと間が空いてしまいましたが第二回です。 僕はそんな中で二年先輩の早稲田の数学科に通っている長尾さんという人と親しくなった。ある日、長尾さんが僕の部屋にやってきて 「おまえ、確かICUだったよな」と聞いた。 …
photo by Matt Perreault 1. 東京に住んでいる人でも茗荷谷なんて駅は知らないかもしれないが、確かにそういう名前の駅は実在する。どこにあるのかというと丸ノ内線の池袋と御茶ノ水の間にある。御茶ノ水からだと後楽園、本郷三丁目となって次だ。駅のそばに…
物置部屋を整理していたら大学4年に僕が初めて書いた短編小説の習作が出てきた。前の年に村上春樹の「ノルウェイの森」にすっかりはまってしまった僕は彼の小説を片っ端から読み、ノルウェイの森の冒頭部分が「蛍」という短編として先に書かれていた事を知…
(6) 受話器を上げ、自分でも信じられないくらい冷静に呼び出し音を聴く。やがて男の声がする。「FM東京、リクエスト係です。」 「中村さゆりさんと話がしたいのですが」 「彼女は今、放送中ですが」 「かまいません」 「そっちが構わなくてもね、こっち…
(5) 俺は悲しかった。涙が止まらなかった。こんなことなら話しかけなければ良かった。一生、会わないで美しい思い出として胸にしまっておきたかった。いさ子が俺をはめようとした。それも色仕掛けで。何てこった。だれに頼まれたのだ。なぜ、彼女は断らな…
(4) だが一体誰に。そして何のために。思い当たるのは一つだけだ。リボルバーを盗んだ犯人と勘違いされているのだ。
いつのまにか宝町まで来ていた。一駅分、歩いてしまったのだ。まったく疲れを感じない。それどころかますますどこかへ行きたい気分だ。家には帰りたくない。この気分は、世界中を独り占めしちまったような気分はとても誰かと共有できるものではない。 それは…
この小説で主人公の正晴はウォークマンで様々な曲を聴きながら夜の東京を歩いて行く。様々な曲がそれぞれ意味を持ちながらバックミュージックのように小説の背景を埋める。 ウォークマンのラジオを聴くという一方通行のコミュニケーションを、だが主人公はラ…
(1) 僕はその日、クリスマスの晩に礼拝に行った銀座の教会のトイレでおもちゃみたいな60口径のレボルバーを拾った。 おもちゃだと思ったのでみやげにと思ってコートのポケットにそれを忍ばせ、レボルバーことはすっかり忘れて歩き出した。 『60口径の…
20代の頃、僕はなかなかに真面目に賞を目指して色々な短編小説を書いた。会社から帰って来て夕食を終えるとNack5で斎藤千夏のDJを聴きながら初めてのボーナスで買ったパソコンで一太郎というソフトを使って毎日1時間から2時間くらい書いていた。 会社の友人…