或る阿呆の一生

2013年11月14日  書き換えによる習作8日目

芥川龍之介のオリジナル 八 火花 彼は雨に濡れたまま、アスフアルトの上を踏んで行つた。雨は可也かなり烈しかつた。彼は水沫しぶきの満ちた中にゴム引の外套の匂を感じた。 すると目の前の架空線が一本、紫いろの火花を発してゐた。彼は妙に感動した。彼の…

2013年11月11日   書き換えによる習作6日目

芥川龍之介のオリジナル 六 病 彼は絶え間ない潮風の中に大きい英吉利イギリス語の辞書をひろげ、指先に言葉を探してゐた。 Talaria 翼の生えた靴、或はサンダアル。 Tale 話。 Talipot 東印度に産する椰子やし。幹は五十呎フイートより百呎の高さに至り、葉…

2013年11月10日   書き換えによる習作5日目

芥川龍之介のオリジナル 五 我 彼は彼の先輩と一しよに或カツフエの卓子テエブルに向ひ、絶えず巻煙草をふかしてゐた。彼は余り口をきかなかつた。が、彼の先輩の言葉には熱心に耳を傾けてゐた。 「けふは半日自動車に乗つてゐた。」 「何か用があつたのです…

2013年11月9日   書き換えによる習作4日目

芥川龍之介のオリジナル 三 家 彼は或郊外の二階の部屋に寝起きしてゐた。それは地盤の緩ゆるい為に妙に傾いた二階だつた。 彼の伯母はこの二階に度たび彼と喧嘩をした。それは彼の養父母の仲裁を受けることもないことはなかつた。しかし彼は彼の伯母に誰よ…

2013年11月8日  書き換えによる習作3日目

芥川龍之介のオリジナル 二 母 狂人たちは皆同じやうに鼠色の着物を着せられてゐた。広い部屋はその為に一層憂欝に見えるらしかつた。彼等の一人はオルガンに向ひ、熱心に讃美歌を弾ひきつづけてゐた。同時に又彼等の一人は丁度部屋のまん中に立ち、踊ると云…

2013年11月7日 書き換えによる習作2日目

芥川龍之介のオリジナル 一 時代 それは或本屋の二階だつた。二十歳の彼は書棚にかけた西洋風の梯子はしごに登り、新らしい本を探してゐた。モオパスサン、ボオドレエル、ストリントベリイ、イブセン、シヨウ、トルストイ、…… そのうちに日の暮は迫り出した…

2013年11月6日 書き換えによる習作

芥川龍之介の「或阿呆の一生」を書き直すことで文章を訓練してみようと思いました。 まずは芥川龍之介のオリジナル 或阿呆の一生 芥川龍之介 僕はこの原稿を発表する可否は勿論、発表する時や機関も君に一任したいと思つてゐる。 君はこの原稿の中に出て来る…